見よ、この美しくエモい生命の輝きを
あなたはかつて想像したことがあっただろうか、人類が雨や風をしのぐことをせず、ただただ煌めく光の演出装置として働くこれほどまでに巨大な架構を建設する日が来るということを。
ルーブル アブダビ (Louvre Abu Dhabi)
Jean Nouvelによるこの傑作は、あまりに美しすぎるその完成イメージ図によって発表当時から人々の注目を集めていました。
中東の街区をイメージした箱型の部屋が並ぶ海辺に注ぐ太陽の光。それはヤシの木から注ぐ光のようでもあり、あるいはイスラミックな幾何学模様の作り出す神秘の宇宙に瞬く星空のようでもありました。海とヤシの木と真珠とサーベルをとにかく表現したい中東湾岸諸国のお金持ちの心を掴んだことは言うまでもありません。
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2017年11月8日、歴史に残る傑作になるであろうと誰もが確信したこの美術館はオープンしました。そして2018年1月、幸運にも僕はアブダビに仕事で行く用事があり、合間の時間で訪れることができました。写真を頑張って撮ったのでレポートしていきます。動画も取りましたがハンドヘルドに後からソフトウェアで手ブレ補正かけたので酔うかもしれません。
タクシーを降りると、埋立地の一角にそれはありました。なんでもこの周辺はザハ・ハディド、フランク・ゲーリー、安藤忠雄による美術館博物館がこれからも建設される予定らしく、現代のネクサスワールドかよ!という感じの夢の場所になりそうです。
点字ブロックは三本線でシュッとしてます。弱視の人には厳しいですね。
知らない人が靴紐を結んでいますが、白いトンネルを抜けるとこのようになります。埋立地にドデンと現れる建築という意味ではマリンワールド海の中道っぽさがあります(北九州推し)
入り口のあたりの風景。ちなみにアブダビではUberは走ってなくて、Abu Dhabi Taxiというスマホアプリでタクシーを呼ぶことができます。登録にUAEの電話番号が必須です。
僕はデータsimだったので普通に流しのタクシーを掴まえました。たくさん走ってるので困ることはないです。ぼったくられることもなく、謎に気さくに話しかけてくることもないので快適。料金は15km、20分ぐらいで30 AEDぐらい(ディルハム。1AED = 30JPYぐらいなので900円ぐらい)。安いですね。
当然ですが、完成イメージ図で描かれていたほど屋根は軽やかではないですね。そのぶんメタリックな感じになっていて、覚醒したアキラが登場してSOLを打ち込まれても違和感のないかっこよさになっています。
目地を見て喜ぶ変態がこの世には居るという情報を得たので載せています。
水と白いボリューム。海辺であっても水を穏やかな水盤として設計しているあたりが、近代的というか穏やかな地中海に育まれたフランスの価値観という気がしないでもないですね。
これはOSAMARIというらしいです。
やっと中に入りました。これは荷物検査を抜けたところですね。海外の美術館だとほとんどの場所で荷物検査があります。これはHIJOU-GUCHI-NO-OSAMARI。ありがとうLED。君のお陰でOSAMARIは新たなステージを迎えることができました。ちなみにこの緑の非常口マークは日本発祥の国際標準です。
天井で、どうしても目地が出てしまうところは絶対に角に合わせるのが設計者のこだわり。ですが普通訪れる人は気づきもしません。光る壁の穴とまっさらな天井、なんの金具やビスも見えない壁と天井のきれいな隙間、などかなり手間暇とお金をかけて作られたことが想像されます。
このあたりでチケットを買います。入場料は60 AED。現金で買う列はすごく並んでいたのでカードで買う列で買いました。いよいよ展示空間です。
まずは常設展示に入ります。最初の部屋はなんか世界!って感じの地面に歴史の交差点!って感じで古代の美術品が幾何学のガラスボックスに入れてあります(ボキャ貧)。ガラス感を出すために説明書きは足元にあるのですが死ぬほど見づらい。まあこの部屋はプロローグ的なものなので雰囲気でやっていけば良いのだと思われます。
天井はこんな感じ。ライトがちょっとだけ色温度低い感じっぽかったので青いフィルターで調整してるのでしょうか。
展示室(の床)。割とコンパクトな部屋がたくさん連なっていく構成になっています。スケール的には高級ブランドの直営ショップって感じがしました。行ったこと無いけど。大体の人は床の目地を見ていると思われます。
同じく天井。おそらくこの建築ではドーム天井の体験にすべてが捧げられているので、逆算して展示室の屋根がそれほど高くないです。全面的に透過度の高いディフューザーを吊ることで遠近感も出ますし、天井の低さを感じにくくなっていますね。
展示室と展示室の間は偶にこんな感じで格子窓の廊下があり、宣言通り「イスラム感」を演出すると同時に海とかが見えて癒やされます。
展示品の画像がないですが撮れます。気になるやつはスマホで撮りましたが、日本製のiPhoneだと写真を撮るたびに盗撮していることを戒める警戒音が鳴り響くので、こういう場所では精神力が求められます。
そしてなぜか日本人の来場者めっちゃいました。どこにいたんだ。
たまにある休憩室は落ち着く色合い。このカメラにはおじさんが映り込む不具合があるようですね。
マップを手に入れた。
展示は古代~四大文明~中世以前~中世~近代~現代みたいな時代区分ごとにいろんな土地の美術品が厳選されて展示されています。基本的にヨーロッパ、中東、中国、日本、南北アメリカ大陸、アフリカ大陸から数点ずつがどの時代区分においても展示されている、という感じですね。縄文土器もあります。
こういう時代区分だと博物館みたいな展示になってしまいがちなのですが、さすがルーブルそこはうまくやっていて、展示されているものがとても美しい逸品ばかりです。まさにこれぞ美術館、という感じです。本家のルーブルで天文学的な数の収蔵品を扱っていた苦労から生まれた血と汗の結晶という感じがします。休憩室からはドームが見えて焦らしプレイが楽しめます。ドームのとこは中庭になっていてほぼ展示はないのですね。吹きさらしだしな。
中庭というひとつの閉じた世界にも果てがあり、ここでは深淵に注ぐ滝ではなく、床が盛り上がっています。汚れないようにでしょうか。詳しい人解説お願いします。浮かばれない霊が写り込んでいます。
常設展示を抜けると、急に中学校の新校舎みたいなデザインになります。
このサインは正直かっこ良くもないし気の抜けた配置だし良くないと思いますが、サイン警察の方々いかがでしょうか。
そして、お待ちかねの中庭に出ます。
この素晴らしさはなんと言えば良いのでしょうか。良い建築は人の良い思い出を反芻させ体験する人それぞれを肯定する素晴らしさがあると思いますが、この建築にはそれがありますね。加えて、この建築は素晴らしいものになるという設計者の確信から来るデザインの変質的なこだわりというか、圧力みたいなものがあります。ふわっとした感想で申し訳ないですが。
こういう建築はあまりなくて、日本だと僕の知る限りでは島根県芸術文化センター グラントワがそれです。
実は夕方ごろに展示を見終えるよう狙ってきたのですが大正解でした。こちらの夕焼けは大気中の砂のせいか綺麗なグラデーションで一見の価値があります。
展示は2時間ぐらいで見れます。じっくり見ない人ならもっと早いでしょう。
編集していて気づいたのですが、この写真のヒストグラムはキレイに正規分布になっていました。つまりこの天井周辺の光から影へのグラデーションはすごく連続的であるということです。
この中庭についてもう一つ感じたこと。「人を建築と一対一の抽象的な景色に放り込む」ことが優れた建築デザインの原則であると僕は思っているのですが、この中庭では床、建物、屋根と人工物で抽象的な景色を作り出しています。小さな建物が街区のように並んでいる様子は街路を彷彿とさせるのですが、屋根を屋根と認識しないようになっていることに驚きました。
なんというか、記憶の中にある星空とか、木の隙間から漏れる照明のような体験が僕の頭の中では再生されるのです。これがいかにも屋根!って感じであったならそれはもう大江戸温泉物語、ショッピングモールの世界になってしまうのでしょうが、星空や木漏れ日のような別の体験を想起させることによって屋根であるという認識を薄めているということが、この空間を特異なものにしている一番の要因だと思いました。
光の演出のための屋根、という意味で引き合いに出されるのはブレーのニュートン記念堂ですが、あれであったならここまで屋根を無力化できたかというと怪しい気がします。
あと、そうして作り出された抽象的な空間にいろんな人種のいろんな服の人が歩いていて、ああ宇宙の都市はこのような風景なのだろうな、とか思いました。未来感があります。
これにはサイン警察もニッコリ。フォントは手抜きか?斜め下から見るとこんな感じになってます。美しい写真ですが構図がクソライフハック記事で使われるフリー素材っぽい。
端部と夕焼け。先程の画像を見てみても、トラスによってドームが作られており、幾何学模様のプレートがスキンとして吊り下げられ端部はゴツい円によって支えられていることがわかります。
でもプレートも重いと思われるのでいちおうそれぞれの層で内部応力を分散するトポロジーになっているのだろうと推測します。
完成イメージ図通りにするための言い訳程度に植物が植えられています。
暗闇の中に浮かび上がる建物の光を見ると、僕は交響詩篇エウレカセブン第16話に出てきたフランク・ロイド・ライト設計の落水荘を思い出します。みなさんはどんなときに落水荘を思い出しますか?
夕焼けも暮れる寸前になると反射光が強くなり、「木の枝を想起させる力」のパラメータが急上昇します。かべのひかるあなのしくみ。
さらに暗くなってくると、トラスに仕込まれた灯体が光ります。文明を感じます。
屋根を抜けると海です。葛西臨海水族園っぽいですね。
最後に一番美しく撮れた写真。ほとんど建築は関係ないですが。
おまけ:
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