今さらながら、長谷敏司『あなたのための物語』を読んだ。終盤はよく分からない部分もあったので、少し情報を整理しようと思う。

ネタバレだらけなので、了承される方だけ読んでいただきたい。

 

「すごく読み疲れる話」だというのがひとまずの感想。ネガティブで暗い内面の描写が延々と続くことに加えて、大きく場所が移ったり大きなイベントがあるわけでもないので全体のトーンが変わらないことが影響していると思う。

既に『BEETLESS』、『My Humanity』を読んでいることも影響しているかもしれないが、主題も、特に驚きのある内容ではない。「人は誰かの物語を取り込んで自分がなりたい姿(自分の物語)を描き、その連続性によって社会は作られている」というもの。それこそが科学よりも遥かに深く続く文学の歴史であるし、『SHIROBAKO』の最後でも宮森がそんなこと(細いろうそくの火のような)を言ってたような。

ただ、読む価値があったなと思うのは、自己の内面の闇(自意識の不満足)と向き合う描写がひたすら続くというところ。自意識を苛む苦悩と抵抗は僕にとってまさしく「物語」であり、誰かがその人生を生きたのだということが、虚構であっても「僕の物語」の一部になっていくのだと思う。

 

さて、感想はそんなところにして、一読してよく分からなかった、というか疲れてあまり理解する気もおきなかったところを整理する。物語の終盤、<<wanna be>>との最後の会話と、<<サマンサ>>との会話がなぜ描かれているのか、ということを理解したい。

“wanna be”との会話

“wanna be”の死そのものが、「サマンサにとっても物語」であり、彼女は死までの空白を物語によって埋めることが出来る。

  • “wanna be”にとって物語の価値とは、人から言語を奪うことにある:
    •  人はことばと意味からなる「自分の物語」を自分の中に構築しており、それ自体が大きなストレスでもある:
      • 「人間は、みずからという情報集積体(データベース)を、ことばと意味で高度に構築しています」
      • 「ですが、この状態そのものが、人間にとって不自然でストレスです」(無根拠)
      • したがって、意味の媒介となる”ことば”を使って物語を書くことでストレスを分散している。
    • 小説や物語が商品たりうるのは、「言葉を使って、読み手から一秒でも一瞬でも”言語を奪う”ことが出来たからだと思う」:
      • “wanna be”にとってはこのデータベース自体が彼の生そのものであり、そこに飛躍を持ち込むことが物語の主要な価値であると結論づけた。
  • “wanna be”にとって世界のすべてである「奉仕するべき対象(サマンサ)」は、人間の価値観の中で「恋い焦がれる相手」という対象に関連づけられた。
  • したがって、”wabba be”にとって「死ぬ」とは:
    • 「愛する人にすべてを捧げる」という、「愛」の究極の形である
    • 「サマンサの物語」に欠如している「死にまつわる良い感情」を保管する事ができる、「サマンサのための物語」である

<<サマンサ>>との会話

肉体に起因する死を物語の出発点としていた<<サマンサ>>から肉体を奪いガラスケースに閉じ込めることで相対化し、これまでの自分の根源を理解することが出来た。

  • << サマンサ >> とは、それまで生きてきた自分の本質:
    • サマンサは、実家で母に接することで、”wanna be”とも分かり合えない要因を、「物語の慣性」によるものだと理解できた:
      • 信仰という物語によって生き方を決めるウォーカー家
      • ウォーカー家への反抗を物語とした<<サマンサ>>
      • 肉体に起因する物語を持たない”wanna be”
    • << サマンサ >> は人と分かり合えない理由を理解せず、それを憎しみに転嫁することで「自分の物語」としていた
    • 肉体に由来する「死」を生存の欲求の根源としていたにもかかわらずそれを自覚していなかった<< サマンサ >>は、その行動指針を抱えたまま肉体を持たないITP人格となり、事実上の袋小路に陥ってしまった。
    • それは「自己愛」と変わらないものであり、古くから変わらない、肉体に帰属する動機だった。その行き着く先も、古くから変わらない。
  • 「古くからの動機」に突き動かされてきた<< サマンサ >>が彼女の全てだったのだと、死の前に自分を理解することができた。
  • << サマンサ >>も、<< 彼 >>の本を気にかけていた。それは、自分自身の限界に気づく希望が彼女の中に既にあった証拠である。

関連記事

『君の名は』はキモいのか

フェイクだった時代の終焉

低解像度動画を高解像度にアプコンする精度がすごいと話題のTecoGANをwindowsで動かしてみた

5月分のBanggoodクーポン Mi Pad 4 Plusもあるよ

Kindle Cloud Readerで洋書を読む時にgoogle翻訳を使う

シグマのフルサイズ超広角Artレンズを買った

コメント

コメントを返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です