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「ニコニコ建築の幻像学」を読みました。

ニコニコ動画で「建築」タグを持つ動画や、マインクラフト上など、コンピュータの仮想空間内で作られている建築を「ニコニコ建築」と呼び、「その可能性を雑誌制作を通じて追いたい。」という、ニコちくさん(@nicochiku1986)による同人誌です。

こういう同人誌っていいっすよねなんか。オラワクワクします。

全体は2つの特集に分かれてて割とこれがどう繋がるんだみたいのなところもあるので、これらから見えてきた幻像を僕のフィルターを通して書いてみます。

構成としては

  • 「ニコニコ建築」という言葉の生みの親である江渡浩一郎さん(@eto)への巻頭インタビュー
  • インターネットにおける「建築」の筆頭とも言える「MINECRAFT」特集
  • インターネット界隈の建築・音楽クラスタの論評特集

みたいな感じ。

全体を通して見えてくるのは、

  • なぜ人は建築をつくるのか
  • 誰もが建築をつくるなら、CGMとしての建築はいかに可能か

といったところです。

 

Contents

MINECRAFT:なぜ人は建築をつくるのか

松永伸司さん(@zmzizm)の論評では、建築的プレイを可能にするゲームの諸条件として、

  1.  ゲームシステム空間(ゲームシステムの内部の空間)の存在
  2. 空間内の静的オブジェクトの位置をプレイヤーが変化させられること
  3. 位置変化の維持

という条件が上げられています。

また、朝永ミルチさん(@mircea_morning)の記事(「スティーブ(プレイヤーキャラ)」への擬似インタビュー)では、MINE CRAFTがニコニコ動画ではMMDのように「ストーリーの舞台」として使われているということも特徴として触れられています。

実際、僕はニコニコ生放送が始まったころぐらいまではニコニコ動画の割とヘビーなユーザーだったので、

[nicodo display=”player” width=”600″ height=”330″]sm12586626[/nicodo]

とか、

[nicodo display=”player” width=”600″ height=”330″]sm17623852[/nicodo]

とかは見たことあって、大阪在住のWebbstreさんによるチュートリアル

を参考にMINECRAFTをやってみたこともあったのですが、なんか続きませんでした。

やはり、バーチャル空間の「スペックの低さ」というか、そういうのが気になるんだと思います。

エルンスト・マッハ:

「生理学的空間内の点」は、「つかむことや見ることといった運動や移動運動の目的」にほかならない(体が周りの空間を「マッピング」する出発点であり、またその運動が目的指向であるため、私たちは空間を形として捉えることができる。)

ジュール=アンリ・ポアンカレ:

「私たちは自らの体を基準として外部の物の位置を突き止めるのだし、それらの物について私たちが唯一思い描ける特別な関係は、自分の体との関係なのだ」

これは『ミラーニューロン』という本に出てくる文の引用で、

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そういう「現実空間のスペックは高い」(梅沢和木)的なことは荒川修作だったり村上春樹だったり、洞察力に優れた人は過去にも言葉にしているのですが、最近の脳科学の研究によると、どうも僕たちは脳みそだけで現実空間を完全にモデル化してその中をシミュレートしつつ動いているのではないようなのです。このことは進化の圧力が危険からの回避を前提にしているために、生物の脳と体は無駄な演算を極力はぶくようにできているのだと説明出来ます。例えば、ジグソーパズルのピースをはめる時、ある程度頭の中で目星はつけるものの、大体の人は実際にピースをくるくると回して当てはめると思います。脳内での記号処理という膨大な演算を最小限にして、形の一致の視覚的確認、またはピースがはまった時の皮膚感覚のみで「パズルを解く」という高次の問題を解決することができるのです。

つまり知識は環境に埋め込まれたものもあり、それを取り出すには人間の身体と脳が一体となった処理系が必要だということです。このことは『現れる存在』という本に書かれていて、実世界ロボティクスの分野では90年代以降一般的な話のようです。

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つまり何が言いたいかというと、「バーチャル・アーキテクチャーは建築ではない」

ということです。このことは冒頭のインタビューで江渡浩一郎さんも、ニコニコ建築というのを考えるときに、バーチャル・アーキテクチャだけでなく、リアルといかに繋がっているかも重要であると述べています。

ではなぜ人は造形するのかといえば、「そこに意志が介在するから」ということに尽きます。例えば2次元平面上にゴミをランダムに散らして、ランダムに行動しつつ、ゴミに出会ったら拾って、何か他のゴミに出会ったら置く、という行為によっても「ゴミの山」が生成されます。さらに高次の意志を人が持つ以上、前述した「建築的プレイを可能にするゲームの諸条件」が満たされていれば、人はある「ゴミの山」に何か記号を見出し、造形のスイッチが入るのでしょう。

 

「ニコニコ建築」はいかにして可能か

人間は意志を持つから造形し、MINECRAFTは造形が可能なゲームであり、ユーザー数の増加によってメディア的性格を持つようになってきたという話をしました。

未発育都市のノエルさん(@mihatsuikutoshi)の論考では、

  • 前例のない「高層建築」を説明しうる「芸術論」として「形態は機能に従う」が生まれたが、現在の「時代の意志」である「情報化時代」を説明しうる芸術論が要請されている。
  • 人間に「優しく」、創造性を刺激する「アイコン」がそれに応えうる。

としています。これは「バーチャル・アーキテクチャー」を含んだものとして現代の建築の概念を拡張せねばならないという話で、納得できる話ではありますが、やはり依然として、前述した理由でリアルとバーチャルの違いは意識しておかねばならないだろう、というところを僕は強調したいと思います。

さて、そこで重要になってくるのが、このノエルさんの論考でもとりあげられている、リチャード・フロリダの『クリエイティブ資本論』です。

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この本は、ジェイン・ジェイコブスの『アメリカ大都市の死と生』に影響を受け、人びとの創造性に寄与するものとしての都市に焦点を合わせています。

  • 経済成長には3つのT、すなわち技術[Technology]・才能[Talent]・寛容性[Tolerance]すべてが揃わなければならない。
  • 現代において才能はクリエイティブ・クラスという階層に属する。
  • クリエイティブ・クラスを惹きつけることが重要である。

という話です。つまり経済の優位性は圧倒的にアイデアによって生まれ、アイデアはある特定の条件下で豊かに生まれ(メタ・アイデア)、都市のメタ・アイデアはどのようなものを目指すべきか、が書かれているのです。メタ・アイデアについては

  • Paul Romer, “Economic Growth”, in The Fortune Encyclopedia of Economics, David R. Henderson(ed.). New York: Time Warner Books, 1993, p. 33.

が参考文献としてあげられていますが僕は未読です。

ともかく重要なのは、「創造的または教育レベルの高い人が集まり、かつ寛容であること」です。MINECRAFTが創造的な人を集める場であることは明白でしょう。

僕はこれらに加えて、「ストーリー」が決定的に重要であると思います(僕の以前のエントリをご参照下さい)。『クリエイティブ資本論』でもいまや毎年SXSWで盛り上がるオースティンしかり、音楽文化が大事だと言っていますが、簡単にいえば「らしさ」を人びとがどれだけ指向できるか、その「らしさ」が寛容に更新され続けられることが大事です。創作作品が「ストーリー」とも言える緻密な世界描写を伴う作品なんかもあります。士郎正宗さんの作品や帝國少年さんのイラストとか。建築界隈で僕がちょっと注目してるものとしては、「UNDER TOMORROWS SKY」というプロジェクトがあります。TOMORROWS THOUGHTS TODAYという建築家グループが主催する、有識者による一つの未来を作るプロジェクトです。ワクワクします。

この関連として、神野智彦さん(@gnck)の論考では、3次元ビットマップであるMINECRAFTの魅力について、

  • ビットマップは複製可能性による像の共有、手法それ自体の現前性により人を惹きつける

という説明をされています。ドット絵や8bitサウンドがむしろ現代においても人気を増してきているようにさえ感じられるのは、この「手法それ自体が現前していること」にあるのでしょう。それまで特別な能力を有した「ギーク」しかアクセスできなかった空間に参入できるようになり、その空間を特徴付けている機能を現前させるようなものを表現手段として採用することで、「ストーリー」へ参加しているのだと言えます。

MINECRAFTは前述のようにみんなが知っている場所の再現の動画が最も有名になり、参入する人もそれを指向し、古参の人間は「こんなやり方もあるんだぜ」みたいなすごさを追求することができます。この最後の部分が決定的に大事なのだと思います。

んーまあ散漫になりましたがまとめます。

「ニコニコ建築」というのは、江渡浩一郎さんの話からすると、

「人間らしい集合知」を唱えたニコニコ動画のように、人びとが自分で作り上げたようなもの

ということになります。それには人びとの創造性を担うメディアとしての都市、IT等メタ・アイデアに対する整備が必要であり、本質的には身体感覚を通してしか建築は存在しえないとしても、広義の空間においてゲームシステムや手法をメディアとした造形のおもしろさ、楽しさは存在し、それが確かなストーリーとして現れるとき、現実に影響を与えるようなメタ・アイデアになりうるのではないか、ということです。

ついでに僕のスタンスを表明しておくと、

  • 実世界とのインタラクションを重視したなにかをつくりたい
  • いろんなストーリーに触れたい
  • 人びとが創造を担うべき時代を阻害するものを説得力のある方法で壊したい
  • 人の思い出になるストーリーをつくりたい

ということになります。一緒に何かしようよ、という方はぜひ声をかけてほしいです。

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